今年も冬がやってきた。2018年の今年は、恒例の新疆ウイグル自治区三道嶺での蒸気機関車撮影ツアーが始まる5日程前に中国に入り、北京も程近い河北省承德で国鉄線や専用線を撮ろうと目論んだ。12月23日の羽田空港行き最終電車は、クリスマスの高揚感に溢れる市街からゆっくりと離れていく。深夜便で北京に入り、国鉄に乗り継ぐ。やがて車窓には見慣れた赤い山並みが広がり始めた。
承德に到着した夜、まず撮影に向かったのは隣町の滦河。この街を起点とする専用線で活躍する、東風4B型機関車の夜間撮影のためである。冷え込む暗い町で機務段(機関車庫)の場所を探るのには苦労したがなんとか辿り着いた。整備員のご厚意により前照灯点灯のサービスまで受けられ、感謝感激であった。
本来なら滦河を寝泊まりの拠点としたかったのだが、外国人を受け入れてくれる良い宿が見当たらず、承德に宿をとることになった。
翌朝、まだ陽の昇らないうちからバスに乗り町の西を目指す。今度は東風4B型を沿線で捉えようと目論んだのだが、得られた成果は単機回送のみであった。旅客列車の走っていないこういった専用線は、いつ列車が来るのかがサッパリ判らず、忍耐が要求される。カメラバックに忍ばせたカロリーメイトだけが空腹に唸る腹の慰めである。
夕刻の専用線、谷を跨ぐ長大橋を渡る東風4B。何十両と連なる貨車の後ろには、実は後押しの機関車まで控えているのだが、その機関車は依然トンネルの中だった。ロケーションは最高であるだけに、その補助機関車さえ上手く写り込んでいれば…。嬉しくも悔しい一枚。
貨物列車を押し上げた補機は、そのまま単機で山を降っていく。
専用線での撮影に区切りをつけ、国鉄線の撮影に移ることにした。承德から南へバスで下る。上板城駅の手前、滦河を渡る長い鉄橋を見下ろす丘に立った。(先に登場した"滦河"は町であり、今度の"滦河"は川の名前である)貨車を従えた東風4C型の重連や、今や貴重な存在となった二階建て客車を連ねる客車列車が通過していく。背景には冬の華北らしい乾いた色の集落と山並み。
今や中国では貴重な存在となった二階建て客車や、東風4型シリーズの中では地味な存在であるDF4C型が重連を組む姿など、貴重な被写体が続けて通過していくのを眺めるのは実に愉しい時間だった。もっとも、吹き荒ぶ冬の風は厳しく、カメラを構える瞬間以外はずっと丘の上で歩き回っていたが。
陽が傾く頃、この滦河大橋の一番の主役がゆっくりとその姿を舞台に現した。「平泉小票」こと、承德発平泉行の鈍行6455列車。寒風吹き荒ぶ丘の上、鉄橋と奇岩とに構図を合わせ、悴む指先に精一杯の力を込めてシャッターを押した。
余談だがこの列車、機関車1両に客車4両という短い編成ではあるが、中国国鉄に精通した者ならば使われている客車の種類に驚きを隠せないだろう。水色のDF4DH型機関車に続くのは、1両の25B型、2両の22B型と1両の22型客車。中国の鈍行列車を支え続けた量産型非冷房客車の歴史が、この4両編成に詰まっているのである…。
そんなこんなで数日間の撮影を終え北京に戻り、王国軍氏と小竹氏率いる蒸気機関車撮影ツアーに合流した。