繰り返される緊急事態宣言、迫る就活解禁。流石に自宅で過ごす時間が増えたが、さりとてインドアの趣味があるわけではない。家を出ずにストレスを発散する手立てはないかと思いあぐねていたところに、以前より興味のあった3Dプリンタが定価の半額に近い値で売られていると知った私は、すぐにこれに飛びついた。かくして、これまでは意図的に距離を置いていた模型鉄の沼に、私は片足を突っ込むことになったのである。
ことの発端は、2020年の春にふと制作した"モルドバ国鉄D1型気動車"の3Dモデルデータである。これをTwitterに載せたところ、3Dプリントプラレール制作のベテランである空転氏より「うちのプリンタで出力しましょうか」という申し出をいただいたのだ。
暫くして我が家に送り届けられた完成品を手に取り、その正確な出力に私は度肝を抜かれた。なにせ私がこれまで触れたことのあった3Dプリンタは、積層ピッチが0.2mmほどもある熱溶解積層式であり、とてもではないが模型制作には活かせるものではなかったのだ。しかし今手許にあるプリントはどうであろう、高性能な光造形式の3Dプリンタとその操作に慣れたユーザにより印刷されたモデルは、ほとんど積層跡が見えないのである。
数年ぶりに握る缶スプレィに悪戦苦闘しつつ彩色した先頭車と後尾車。仕上がりを見てもやはり、市販品のように滑らかな曲面にまず唸らされる。これ以上良いものを求めるならば、まずは自分の塗装の腕を磨く方が先決であろう。
しかし2020年も夏・秋頃には感染拡大がやや落ち着き、国内近場の都市にならば撮影散歩に出られるようになった。3Dデータ弄りからは暫く離れてしまうことになる。
転機は年末年始。またもや外出に対する世間の目が厳しくなった頃に、私の愛用している"Rhinoceros"という3Dモデリングソフトの新バージョンが公開された。体験版をダウンロードして使ってみる。旧バージョンと大きな差は感じられなかったが、それゆえに使いやすく、いつの間にか新しい3Dモデルのデータが完成していた。そして時を同じくして、amazonで3Dプリンタが安くなっているという通知。果たして2021年1月某日、我が家に大荷物が担ぎ込まれたのであった。
めでたく我が家の魑魅魍魎な機材の一員となったのは、anycubic photon社のPhoton Monoという機種である。2020年の8月に登場した新型機だ。梱包が大層なのには驚いたが、開けてみると存外小さい。セッティングも10分程度で済んでしまった。
躯体が小さい分、プリントが可能な面積も130mm×80mmと葉書より一回り小さい程度しかない。プラレール1両がぎりぎり、という所である。
とりあえず側面と前面、それに屋根をバラバラに印刷する"板キット式"で出力してみた。しかし、平面部は予想以上に反り、パーツの縁もダレている。空転氏曰く「全体をまとめてプリントした方がいい」とのこと。それに従って車体全体を一括で出力すると、今度はいい具合に刷り上がった。
屋根の緩曲面に出た積層跡など多少のヤスリがけは要したものの、ほとんどプリントされたものに塗装するだけで意中の車両を模型(おもちゃ)化できる。素晴らしい時代に生きているものだと実感する。因みに、このサイズのモデルで印刷に要する時間は4時間程であった。
今回の中国鉄路 東風4B型のモデルはリアル化を追求せず、あくまで玩具として一昔前のプラレールに寄せる方向性を採った。実車と比較しても微妙に似ていない、箱絵に期待して開封するとややガッカリするような昔の玩具の雰囲気である。概ね狙い通りの出来上がりになって非常に満足したところで、今度はなるべく細密なモデルを印刷してみたくなった。
再びRhinocerosを立ち上げ、ちまちまとモデリングをする。1日もあればデータは完成。しかし流石に細密なモデルなので、一発でプリント成功とはいかず、都合3発目でようやく納得いくものになった。高さ方向に分割したため、1回のプリントに要する時間は2時間半ほど。
ここまで小さいモデルだと流石に積層跡を消す度胸も技術もなく、ほとんど造形には手を入れないで塗装をした。しかし台車周りのディテールの再現度など、見事という他にない。集電装置は1mm×1mmの太さしかないが、強度は十分。軸箱の四隅のボルト(?)など、直径0.4mm・厚さ幅0.3mmの極小モールドである。これが寸分の狂いなく出力されるので恐れ入った。
むしろ、大きめの平面にヒケのような筋が出るのが弱点だろう。裏側の造形を工夫すれば解消できるかもしれない。実物を手にすると写真ほどには気にならないのだが。
参考までにこれを印刷した時の設定を書き記すと、以下の通りである。
使用レジンはSK本舗の水洗いレジン・灰色(使用後の洗浄が楽)。積層ピッチ0.05mm、レイヤー毎の照射時間3.5秒、インターバル1秒。ボトムは40秒を6層。今のところこの設定で安定して出力できているが、もしより良い設定があればご教授願いたい。
自分のデザインしたおもちゃがそっくりそのまま立体物として造形され、動き出すというのは実に愉快なものだ。自粛生活も捗ってしまう。今後も随時モデリング・プリンティングに励んでいきたいと思う。
このページを読まれた鉄道ファン諸兄にも、ぜひ一度3Dプリントの愉悦を味わっていただきたい。参考までのこのページでお世話になった製品やサイト、そして印刷したプリントデータを列挙しておく。
・空転氏のサイト「空転ワークス」
・使用した3Dプリンタ「anycubic photon社 Photon Mono」
・使用したレジン「SK本舗の水洗いレジン・灰色」
・使用したモデリングソフト「Rhinoceros 7」
・中国鉄路 東風4B型の.STLデータ
・中国 沫江煤電風 凸電の.3dmデータ
(プリント後にヤスリ掛けなどのの調整が必要です。拙いモデルではありますが、私的利用の範囲でご自由にお使いください。また改造データを含めた再配布・商業利用はご遠慮ください。そして、このページの情報やモデルが役に立ったという方は、下記リンクより筆者の3Dプリンタの消耗品補充にご協力いただけますと助かります。)
・筆者に水洗いレジンを届ける(Amazon欲しいものリスト)