台湾の旧型客車が、復元整備後はじめて台北エリアを走る。
2023年の晩夏、1週間限定の復活劇。
そんなニュースを目にしても、私は見なかったふりをしていた。
私は既に学生ではない。仕事も家庭もある身なのだ。
しかし、現地の鉄道ファンから送られてきた写真を見るに、私の身体の奥底に脈打つ「台湾生まれの末裔」としての血は一気に沸点に達してしまった。
台風迫る東京に妻と仕事を残して、私はひとり台北の土を踏んだ。
20世紀末、GE社製電機が藍色の旧型客車を牽引して幹線を闊歩していた時代。
その憧憬を胸に、時にはドローンを飛ばし、また別の時にはGR3を握りしめ、北台湾の線路端を行ったり来たりした。
やはり台湾は良い。
地元の方々の優しさ、景色の美しさ、食事の美味しさ、全てが己の疲れた身に染み入るようである。
台北の街角の食堂で、台湾人鉄道ファンとビールを煽りながら大蒜の効いた野菜炒めなどを突きつつ、この国が隣国であり - 自らの運命と切っても切り離せない地であるという幸運について、誰にでもなく感謝するのであった。