芭石鉄道(2017/03)

2017年春。2015年から3年連続で訪れる春の芭石鉄道だったが、3度目の正直とはこのことか、今回はついに菜の花が満開のシーズンに訪れることが叶った。2014年末の初訪問から通算すれば4度目、そろそろひとつ納得のいくカットが欲しいな…と願いつつ、3月中旬の四川省に降り立った。

成都の空港に着いたその日のうちにバスで楽山まで移動。そういえば、いつかケンウェイ(犍为)まで高速鉄道が開通するという話を小耳に挟んだものの、さていつ頃開通するのだろうか。どちらにせよバスの方がずっと安い上に大した距離でも無いので、高速鉄道が開通してもバスを使い続ける可能性の方が大きいのだが。しかし高速鉄道が開通した暁には、芭石鉄道はいっそう観光客で溢れることになるだろう。

楽山で一泊したのち、翌朝のバスで芭石鉄道入り。躍進站にはピカピカの観光客車が横付けされ、観光客が群がっていた。それらを横目に見つつ、私はこれまでと同じように徒歩で山登りを始める。私は未だに芭石の観光列車のシステムを今ひとつ理解していないし、わざわざ高い料金を払って面白みのない観光客車に乗ることもない。スイッチバックの蜜蜂岩までは5km、一時間半も歩けば辿り着く。

今回の芭石訪問では、蜜蜂岩の駅脇にある陳先生の薬局兼ホテルを拠点として行動した。朝夕に麓の躍進まで戻る必要がなく行動の自由度が上がるし、なにより食事付きでも麓のホテルよりずっと安い。トイレとシャワーが少々鬼門ではあるが…。今回は短い滞在であり汗をかくような気候でもなかったので、シャワーは浴びずに済ませてしまうことにした。下手なことをして風邪を引いてもつまらないし、結局のところはズボラなのである。

菜の花は見事に満開であった。定番の撮影地はご覧の通り、しかもモルタルで固められた「お立ち台」には飲食物の屋台はもちろん、観光客整理のための警官まで居るのだから驚かされた。しかし、やがて観光列車が到着してカメラやスマホを持った中国人たちが一斉にお立ち台へ駆け上がって来るのを見て、警官の必要性にも納得が行った。

せっかく「現役のナロー蒸汽」を追い求めて中国の奥地まで来ているのに、観光客だらけの中で撮影するのもなんだかなぁ…と思っていたが、それでも最終の普通列車がやってくる頃には他の観光客は去り、のんびりと撮影することができた。マッチ箱客車を従えたナロー蒸気が満開の菜の花畑を往く、いかにも芭石といったカットをようやく収めることが叶った。

もう一箇所の定番撮影地である亮水沱は、翌日の夕方に訪れた。その日の観光列車が全て走り終え、最終の普通列車がやってくる。くすんだ色のマッチ箱客車は、被写体としても申し分ない。まるで10年20年前の芭石鉄道に戻ったような雰囲気ですらある。

観光客だらけなのは嫌と言いつつ、なぜこの時期の芭石に来るのかといえば、単に菜の花目当てというだけでは無い。この時期は観光用の新造客車が全て増発された観光列車に充当されるため、朝夕の普通列車は基本的に全てオンボロのマッチ箱客車のみで組成されるのである。これを撮りたいばかりに、わざわざ繁忙期に訪問しているのだ。

観光客車はその眩いほどに鮮やかな緑色のせいで機関車よりも目立ってしまうのが悩ましい。いろいろと試行錯誤して、なるべく機関車だけを写す構図で撮影してみた。

芭溝から黄村井の間にあるSカーブにて。背景の炭鉱住宅がまたなかなか寂れた雰囲気を醸し出してくれた。この場所で汽車を待っている間に他の中国人の方々と談笑していたのだが、驚かされるのは中国人たちの撮影機材が豪勢なことである。ご夫婦と思しき人たちが二人とも太いレンズを付けたフラッグシップ機を首から下げているものだから、まったく敵わない。その一方でスマホで自撮りをする主婦観光客もたくさん居て、芭石は見事なほどに観光化に成功したものだなぁと感心させられるのだ。

今回の芭石訪問で一番気に入ったのは、菜子バの大カーブを外側から撮影するこの地点。手前に菜の花畑、奥に少し霞んだ山という絶好のロケーション。しかも勾配区間であり煙も望める。滞在中は四度この撮影地で普通列車を待ち伏せ、やっと納得のいくカットを手に入れた。

芭石滞在の最後の夜は麓の躍進ホテルに泊まった。繁忙期であり多少値が張るのは覚悟の上であったが、実際に行ってみると予想を遥かに上回る一泊380元。都市部の中上級ホテルにすら泊まれそうな値段である。他に選択肢もないので妥協したが、明らかに観光客の足許を見た価格設定には気が萎えた。

躍進ホテルに泊まった翌日、早朝の4時半にホテルを発つ。街灯すらまともに無い夜道を一時間歩き、車庫のある石渓へやってきた。芭石鉄道の始発は朝7時、それまでにバルブ撮影を一度してみたかったのだ。石渓に着いた私は喜び勇み機関庫を訪問したが、期待したほどの撮影はできなかった。せめて釜の向きが逆向きだったら良かったのだが…C2型がお尻を向けて5両もぎゅうぎゅう詰めで停められており、しかも構内照明がまた厄介なもので、もたもたしているうちに出庫の時間になってしまったのである。

石渓站に停まる始発列車。この発車を見送ったのち、私も成都への帰途に就いた。観光シーズンなので帰りのバスの切符が残っているか気を揉んだものだが、なんのことはなく成都行きのバスの切符はすぐに取れてしまった。

さて、四度目にして満開の菜の花も納得いくカットも収められたが、次に来るのはいつになるのだろう。汽車の写真はともかく、また陳先生のお宅で麻婆豆腐を食べたいものである。


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