盛夏東欧大遠征 Part1

夏の遠征先を決めあぐねていたある日、私は海外の鉄道サイトでひとつの興味深い車両を目にした。赤と黄のツートンカラー、流線型でありながらどこか野暮ったい風貌。その車両の名はD1(キリル文字表記:Д1)、東欧の小国モルドバに生きる老兵であった。

このモルドバのD1訪問を核として、ウクライナの首都キエフを起終点とする遠征計画を取りまとめた。盛夏の東欧、3週間に渡る大遠征である。体力的にかなりハードな遠征と見込んだのだが、なんと母親が同行すると言い出す。有名観光地や優雅なホテルを旅する訳ではないと説明したが、もとよりその方面に強く関心がある母ではない。かくして、母子で巡る奇妙な東欧遠征が始まった。

8月3日に成田を発ち、イスタンブールで飛行機を乗り継いだのち4日午前にキエフに到着。ホテルにチェックインし荷物を置く。部屋の窓からは旧共産圏らしい塔とトラムが一緒に撮影できた。眼下に走る車両はおそらくタトラT3SUCS、プラハからの転属車両である。

国鉄キエフ駅前でトラムを撮影。タトラT3SUだろうか、ずいぶん塗装が色あせている。

トラム撮影もほどほどに、キエフを2時少し前に発つ普通電車に乗りMalyutyanka駅で下車する。南に少し歩き、築堤を走る線路が綺麗に見渡せる場所でカメラを構えた。

10両編成のエレクトリーチカ。車両毎の塗装の濃淡の差がなかなか酷い。

VL80(ВЛ80)牽引の貨物列車。キエフ近郊での貨物の多くにVL80が充当されているようだった。無蓋車やタンク車など雑多な貨車をつなぎ合わせた編成が愉快だ。

夕方になると次第に正面に日が当たらなくなるので、駅近くから逆方面の列車を撮影する。

6両編成のエレクトリーチカ。

VL80牽引の貨物列車。長編成の列車は、編成後部が影に隠れてしまう。

翌日はまたキエフ駅前でトラムの撮影をしていた。午前中は雲が広がり、にわか雨まで降り出す始末。店舗の軒先で雨宿りをしながらの撮影となった。

タトラT3SUCSどうしの離合。

雨上がりの水溜りを使って撮影。駅前の路線はとにかくタトラT3SUCSが休む暇なく来るので、こういったお遊びのカットも気軽に撮影できるのが愉しい。

キエフの街では、このようなアートを随所で見かけた。雨上がりのタトラと合わせて撮影。

この後、昼にかけてソフィア大聖堂などの有名建築を軽く眺め、軽く昼食を済ませたのちにメトロの撮影へと転戦した。天気も快復したので、キエフメトロ1号線の地上区間で撮影開始。

Dnipro駅ホームからの撮影。撮影中に駅員が話しかけて来たので、すわ撮影禁止か、と身構えたものの「列車に注意してね」という一言だけだった。旧共産圏のメトロは撮影禁止の場所が多いが、キエフは随分寛容なようだ。

Darnytsia〜Lisovaにて。歩道橋の上からSカーブをゆくメトロを手軽に撮影できる。青色の車体は、青空の下でより一層魅力的に見える。

メトロ撮影がひと段落したところで、すぐ脇を走るトラムへと撮影対象を切り替える。

タトラT6B5、ウクライナ在住の鉄道ファンから伺った話によれば最初のウクライナ製T6B5とのこと。

もはや見慣れたタトラT3SUCS、プラハからの転入車。

同じくT3SUCS同士の離合。前面の系統表示が故障し、数字が書かれた紙が挿入されている。この車両は、裾部のアンチクライマーのような部分に装飾が施されていた。腰の赤帯の塗り分け位置も微妙にひとつ前の写真の車両とは異なるようだ。

8系統のトラムに乗って移動し、夕方はパルチザン栄光公園(Парк Партизанської Слави)近くで撮影。急勾配を降って来るタトラカーを撮影できるポイントだが、運転間隔が広く撮影効率が悪いのには悩まされた。

タトラT3SUCS、客扱いで停車している隙に正面から撮影。

同じくタトラT6B5SU。街路樹の影が長く伸びて来たので、この辺りで撮影を切り上げた。

8月6日、この日の24時過ぎにキエフを発つ夜行列車でモルドバに向かう計画なので、キエフ滞在中もあまり無茶はできない。とりあえず、トラムの3号線の撮影に向かうことにした。

Heroiv Sevastopolia(Героїв Севастополя)駅付近の歩道橋から撮影。色褪せたタトラT3SUが朝の陽光に照らされて専用軌道を快走する。

スーパーマーケットで朝食がわりのヨーグルトを買い、次の撮影地に向かおうと歩いていると、不意に見慣れぬ車両が国鉄駅の方へと走って行った。凹型の車体とオレンジ色の塗装、希少な工事用車両である。すぐにトラムの駅まで走って戻り、続行の列車で工事用車両を追いかけた。

駅前の折り返しループ線を修繕するための輸送列車だったようだ。作業中はずっと停車していたので、ゆっくりと障害物が除けたタイミングを見計らって撮影。角ばった独特のフォルムが魅力的だ。

今夜は夜行列車に乗るため風呂に入れない。あまり汗をかかないように、午後は涼しい地下鉄の駅でのんびりすることにした。キエフメトロ1号線は駅ごとに建築の意匠が異なっており、一駅ごとに下車して駅を眺めるだけでも愉しい。

さて、いよいよ日も暮れ、キエフを発つ時刻が迫って来た。私たちの乗る列車は、キエフを8月7日の零時50分発のモルドバ・キシナウ行き341列車だ。この列車に乗れば、18時間後にはモルドバの首都キシナウに到着できる……のだが、実際に私たちがキシナウの駅にたどり着くのは途中の幾つかの街で下車した後、8月10日の夕方である。

341列車が入線するまでの暇な時間で、他の夜行列車の撮影。駅ホームで三脚を立てて撮影していてもなにも注意されない。

さて、キエフ駅1番線に遂に「TRAIN-341 ARRIVAL-0024 DEPARTURE-0050」の表示が出た。モスクワ発キシナウ行、数少ない隣国モルドバへの直通列車を待つ人でホームは賑わっている。 深夜零時過ぎ、突然の豪雨の中、電気機関車に牽かれたモルドバ国鉄の緑色の客車は、定時にキエフ駅に滑り込んで来た。謎に包まれたモルドバ国鉄への旅に、出発の鐘が鳴り響いた。

Part2に続く

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